虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 真理が街を歩くだけで、あっちの窓やこっちの角から、

「ハーイ、マリ!」「ヘイ、マリ!」

 なんて、男も女も声をかけてくる。
 
 真理はそのたび軽く右手をあげて、ごく自然な様子で笑顔を振りまいていく。
 まるで、ハリウッド・スターのように。

 どうやらこのストリートでは、真理はちょっとした有名人らしい。

 真理に対してフレンドリーな住民たちは、姉の私にも笑顔で接してくれた。
 ただ、水牛のように大きな男の人が、いきなり歯を見せて抱きついて来るのには、面くらったけど。

 楽しく街に溶け込めるかな、なんて、
 そんなふうに考えていた私は甘かった。
 
 住民とのトラブルがあったわけじゃない。
 要するに、真理がモテすぎた。

 日が暮れると、真理の黒くて大きなボーイフレンドがやって来て、部屋中に響き渡る勢いでベッドを軋ませ、通りの向こうまで聞こえそうな声でメイク・ラブする。

 イエスイエスとかカミングカミングとか、真理とボーイフレンドの夜の大合唱に、薄い壁一枚隔てただけの私は一睡もできない。

 朝になってボーイフレンドがお帰りになってから、さすがに苦情を述べると、真理は面倒臭そうに頭をかきながら、

「理恵。悪いけど、私は女であることを楽しみたいし、そんな私をもっといっぱい愛してほしいと思ってる。そして、そんな私を隠す気なんて、さらさらないの。もともとそっちが転がり込んできたんだから、眠れないのなら耳栓でもして、頭からシーツを被ってて」

 そしてため息をついて、付け足した。

「私みたいになれなんて言う気は無いけど、貞淑も過ぎると愛想尽かされちゃうよ。まあ兄がいつまで待っててくれると思うの?」
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