虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

「覚え……てるよ」

 震える唇で、私は言った。

「忘れてないよ、あの日のこと……」

 涙が滲んで、視界がかすんだ。

「泣きながらペンキ落とししたよね。その後も……」

 九条くんの黒い瞳が、優しく私を見つめている。
  
 ばかだね、私。
 遠慮なんて要らなかった。
 あなたはあの日のまま、少しも変わらずに私を待っていてくれた。
 20年の時間なんて、なんの関係もなかったたんだね──。

「まあくんを……乗せた、車が、遠くなって……。私、なんにもできなくて、いっぱい泣いて……」

 九条くんを乗せた車が遠ざかって行くのを、ただ見送ることしかできなかったあの日。
 こんなに無力でちっぽけな私を、あなたは愛してくれるというの? 九条くん──。
 
「ごめんね……まあくん、ごめんね……」

 言葉が揺れて、涙が溢れて、
 ただ私は、遠い日の、懺悔の言葉を繰り返していた。

 急に、強く引き寄せられた。 
 次の瞬間、私の身体は、九条くんの腕の中で、強く抱き締められていた。

 目の前に、九条くんの優しい瞳がある。
 
 もう、言葉は要らない。 
 しばらく彼の瞳を見つめたあとに、私は全てを委ねるように、そっと目を閉じた。  

 唇に、柔らかく暖かなものが触れた。

 すっと、意識が遠くなる。
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