虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 シャキールさんの突然のアプローチに、瑠美おばさんはひどく困惑したそうだ。
 瑠美おばさんは、アラブの御曹司の心を奪うほど聡明で美しかったけど、32歳の相手より6つも年上で、仮に結婚したところで一夫多妻のアラブの富家では、大勢の妾の末席に並ぶだけになることは分かりきっていた。
 そしてなにより、12歳になったばかりの九条くんがいた。

 でも、

「最後には、母さんは首を縦に振った。俺の進学資金を援助することと、自分との間に子供を作らないことを条件に」

 九条くんは、瑠美おばさんを引き止めようとした。中学を出たらすぐに働くから、そんなことはしなくていい、と。

 瑠美おばさんは、そんな九条くんをこう言って諭した。

「親が一番辛いことはね、子供の夢を叶えてあげられないことなのよ。あなたはお父さんの跡を継いで、国際線のパイロットになりたいのでしょう?」

 そして泣きじゃくる九条くんに、

「私はあなたにも、あなたのお父さんにも、充分に愛されてきました。だからお母さんにも少しだけ、あなたのために恩返しさせて」

 そう言って微笑んだ瑠美おばさんは、12歳の九条くんの目にどのように映ったのだろう。
 
 私は九条くんの話を聞きながら、考えていた。

 九条くんは、とても優しい。
 きっとそれは、愛しい人々を喪う痛みを、九条くんが深く知っているからなんだ、と。
 
 九条くんがときおり浮かべる寂しそうな微笑みは、九条くんが心に刻んできた、痛みの記憶の表れなのかもしれない。
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