虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 分かってくれと、九条くんは小さく頭を下げた。

 紫月さんは少し目線を落として、黙っていた。
 そしてぽつりと、

「正臣。あなたの夢、早川さんとなら叶えられると言うの?」

 九条くんは、そっとうなずいた。

「幼い頃、理恵は俺と同じ夢を見ていてくれた。だから理恵と二人で、あの頃に見た夢を形にしたいんだ」

「……そう」

 紫月さんは、しばらく目を閉じていた。
 そしてゆっくり目を開くと、言った。

「よく分かったわ、私の負けね」

「紫月……」

「ねえ正臣。一つだけ、聞かせてくれる?」

 紫月さんは、少しいたずらっぽい笑顔をみせて、

「もし私が御倉を離れて、パイロットになるあなたに寄り添いたいと言っていたら、あなたは私を選んでくれた?」

「……」

「言えるわけないよね。そんなこと、早川さんの前で」

 紫月さんは、くすりと笑った。

「完敗ね、いっそ清々しいくらい」

 その時、皆のやり取りを黙って聞いていた榊さんが、初めて口を開いた。

「それは違います、紫月さま」

「……どう違うと言うの?」

「紫月さまは負けたのではありません。紫月さまは、九条さまと早川さま、お二人をお許しになられて、祝福なされたのです。それは、紫月さまにしかなし得ないことです」

「……」

「素晴らしいことだと、私は存じます、紫月さま」

「……言うわね、榊のくせに」

 紫月さんは口元を緩めると、私たちに向き直った。

「正臣、早川さん。私たちはフライトの時間だから、そろそろ行くわね」

「あの、紫月さん」

 立ち去ろうとする紫月さんに、私は言った。 

「ありがとう、ございました」

 紫月さんは、私ににっこりと微笑んで、榊さんを連れて広いVIPルームを出ていった。
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