旦那様は征服者~慎神編~
デパートに着き、店内へ入る途中。

「奏瑪さん、内緒のお願いがあります」
「はい、何でしょう?」
「これを、オーナーさんに渡してきていただけませんか?」
そう言って、手紙を渡してきた莉杏。

「これは?」
「どうしても、頭から放れないんです。あの店員さんの表情(かお)が……
レストランはこの最上階ですから、オーナーさんに私の想いをお伝えしたくて…
でも私が渡しに行くと、慎神くんを怒らせることになる。
…………かといって、この行為も怒らせることになるんですが……せめて、奏瑪さんにお願いしようかと…
奏瑪さんにご迷惑かけますが、なんとかお願いできませんか?」

「…………わかりました」
しばらく考え込んだ奏瑪。
静かに頷き言った。


「え……奥様が?」
「はい。こんな行為…慎神様に知られたら、どうなるか……どんな恐ろしいことになるかわかりません。
でもどうか、奥様のお気持ちを汲んで受け取ってください」
レストランに向かった、奏瑪。
オーナーに頭を下げた。

「はい。では、内密に受け取らせていただきます」
「よろしくお願いします。
あと…このお手紙は、読んだら処分してください。
万が一ということがありますので……」

「はい、かしこまりました」
オーナーは深々と頭を下げた。

【◯◯のオーナー様。
先日は、とても美味しいお料理ごちそうさまでした。
突然のお手紙、びっくりされたとは思いますが、私の気持ちだけお伝えしたくて書きました。
ご存知の通り、主人には知られるわけにはいかないので、このような形をとりました。
先日の、私のヤケドのことですが……
どうか、店員さんをクビにするのは避けてください。
誰にでも間違いはあるし、とても反省されているように見受けられたので、私はこれからも引き続きそちらのレストランで頑張ってほしいと思ってます。
どうか、考慮していただきたいと思ってます。
天摩 莉杏】

オーナーはその手紙を再度、封筒にしまい胸に当てた。
そして静かに目を瞑り「はい、かしこまりました。奥様」と呟いて、厨房のコンロで焼いて処分したのだった。


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慎神への大海老を購入し、奏瑪と車に戻る莉杏。
「では、車を回してきます」

奏瑪を待っている、莉杏。

ある男が、少し遠くから莉杏の姿を見つめていた。
「あれって…王子の?
あ、奏瑪くんだ!てことは、あの子が姫君か!
へぇー」
莉杏に後部座席のドアを開ける奏瑪を見て、嬉そうに言った。
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