聖なる夜に、始まる恋
正式に上京を決めた京香が、その準備の為に、慌ただしくこっちと向こうを往復しているのを横目で見ながら、こちらも慌ただしい年末の時間を過ごしていた。


仕事に追われながら、しかし俺は心穏やかならざる日々。なぜなら、迫りくるクリスマスに合わせて、例のイケメン外国人が、ついに京香の家にやって来ると言うのだ。


何をしにくるのか・・・それは誰が考えてみても、明々白々なわけで、ついに来るべき時が来るということ。長い付き合いの幼なじみとしては、めでたい話だと、祝福する一択なわけだが。そう「幼なじみ」としては・・・。


しかし、俺の中で、ふつふつと湧き上がって来るものは、いったいなんなんだ?自分でも処理しきれない感情が、俺の身体の中を駆け巡っているのを自覚せざるを得ない。


実は自分でも気が付かなかった、いやたぶん目を背けていたくすぶっていたものに、一気に火を付けた奴がいるんだ。


「お前、あの時、ここで言ったことは全部ウソか!」


数日前、俺は自宅近くの公園で、アイツに怒鳴りつけられた。クリスマスも近い夜の公園で、男2人がなぜ向かい合っていたかと言えば、それは2年前のある出来事に起因する。


2年前、いや正確に言えば2年8か月前、俺はそいつをここで説き伏せた。そいつ、二階尚輝は、恋人だった京香に突然去られ、混乱の極みにあった。その日尚輝が、彼女の実家に押し掛ける寸前のところを俺が引き留め、無理矢理近くのこの公園に連れて来た。俺にとっては幼い頃、京香とよく遊んだ思い出の公園だったが、その時、ここに来たのは、他に話が出来る適当な場所がなかったからに過ぎない。


尚輝は京香の親から、留学先を聞き出し、乗り込むつもりだった。尚輝の気持ちはわからないでもなかったが、尚輝を愛するがゆえに、奴のもとを去った京香の思いを聞いていた俺は、2人を会わせることは、京香を苦しめるだけだとわかっていた。


だから、俺は尚輝を止めた。なかなか納得しないアイツを諦めさせるために、俺はあの言葉を口にしてしまったんだ。


そして、尚輝はその言葉を忘れてはいなかった。
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