聖なる夜に、始まる恋
(わかった、やってやろうじゃないの。)


俺はついに心を決めた。


聞けば、京香は彼氏を連れて、実家に帰宅。挨拶をした翌日、俺達の県が誇る湯畑で有名な、あの温泉に向かい、そこでクリスマスを過ごすと言う。


ここまで話が進んでいて、今更俺が騒ぎ出すのは、京香にとって迷惑な話だろうが、どこの馬の骨ともわかんないような奴・・・と言っては失礼だが、そんな相手に不戦敗を喫するのだけは止めようって。だって、俺にはアイツと幼なじみとしてだけど、一緒に過ごして来た時間がある。


豊富な湯量と独特の硫黄臭で、日本有数の人気を誇るあの温泉は、冬は人気のスキ-場であり、それに温泉街中心にそびえるシンボルの湯畑のライトアップは雪に彩られて普段に増して美しい。俺達はクリスマスではなかったが、子供の頃、親に連れられ、一緒にあの幻想的な景色を見た記憶もある。


(あの思い出を・・・あの男とのクリスマスナイトで塗り替えられて、たまるか!)


張り合うには、あまりにも遠く、幼い記憶だけど、俺は本気でそう思っていた。


そして迎えた当日。彼氏のフライトの関係で、到着が夜になると聞きつけた俺は、忙しい時期に我が儘を言って、ほぼ定時で退社させてもらい、自宅で待機していた。


アイツが彼氏と家に入る前に、強引に割り込むつもりだった。もうそれしかタイミングはないのだから。


部屋から、京香の家の前が見られるのは幸運だった。やがて1台のタクシ-が彼女の家の前にやって来るのが見えた。


(あれだ!)


次の瞬間、俺は文字通り、部屋を飛び出していた。ダッシュで玄関を出、そして彼氏と並んで家に入ろうとする京香に向かって


「京香!」


俺はあらん限りの声で呼び掛けた。ビックリして、思わず立ち止まった2人の前に、肩で息をしながら、俺は立ちはだかった。


「秀・・・?」


何事?っと言わんばかりに、きょとんとした表情で俺を見る京香に


「お前に・・・話がある。」


情けないけど、息も絶え絶えになりながら、でも懸命に俺は告げる。


「あとにしてくれないかな。お客様が来てるんだから。」


冷静な京香の反応は、予想通りだったから


「あとじゃダメなんだ。今じゃないと間に合わないんだ。頼む、時間をくれ!」


俺はそう言って頭を下げた。
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