聖なる夜に、始まる恋
実家の最寄り駅に着いた頃には、時計の針は10時をとうに過ぎていた。自宅近くまで走る路線バスは既に終了していて、お父さんが迎えに来てくれていた。


「お父さん、ありがとう。無事、戻りました。」


昨日、着いてから電話はしたものの、2年ぶりに帰国したのに、真っ直ぐに帰って来なかった親不孝な娘が、ペコリと頭を下げて、助手席に乗り込むと


「お帰り。元気そうで何よりだ、安心した。」


私の顔を見て、お父さんは安心したように、微笑むと


「お母さんが首を長くして待ってるから、急いで帰ろう。」


と言って、車をスタートさせた。昨日泊まったホテルの周辺は、様々なイルミネーションに包まれ、クリスマス近しを思わせる華やかさだったが、実家への道は駅からの大通りから一本、道を外れると、もう灯りすらまばらになる。


昨日とは一転した光景だけど、そんな静かさが懐かしく、また心休まるものを感じさせる。


家に入ると、お父さんの言葉通り、お母さんが待ちかねたと言わんばかりに、玄関に飛び出して来る。


私も三十路を迎え、もういい齢なんだから、そんなに騒がなくても、と思うが、いきなり海外に飛び出して行ってしまった娘を心配するなという方が、親からすれば、無理な話なんだろう。


今更ながら、申し訳ないことをしたかな、なんて思いが浮かんで来た。


父親は明日仕事だからと、すぐに寝室に行ってしまった。報告しなければならないことも、相談したいこともあるが、それはまた改めてということで、今夜は母親が用意してくれたかなり遅めの夕食を摂りながら、久しぶりに母子の会話を楽しんだ。


「そう言えば、昨日空港に秀が来てたんだよね。」


「うん、あんたが帰って来るって話をしたら、迎えに行きたいんで、飛行機の到着予定時間を教えてくれって言われてね。」


「そうか、それでか。でも、特に話もしないまま、アイツすぐ帰っちゃったんだよね。何しに来たんだろう?」


私がそう言って、首を捻ると


「あんた、絵の勉強は熱心にやったみたいだけど、他のことはあんまりのようだね。」


とやや呆れ気味の母の声。


「他のことって?」


母の言いたいことがわからずに、問い返すと


「とりあえず、今夜はもう遅いから、早く休みなさい。」


はぐらかすように言って、母は立ち上がった。
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