秘密のノエルージュ

 そのすぐ後の土曜日、兄と父を家に放置して、母と二人でデパートの女性下着売り場にやってきた。

 はじめて意識的に足を踏み入れたその場所は、菜帆にとって未知の世界だった。

 今までは傍を通り過ぎることはあっても、自分には関わりがないと思っていた。というより、認識さえしていなかった。だから少しだけ怖かった。大人になる階段を強制的に登らされているような、不安がいっぱいで。

「か、かわいい……!」

 けれどその不安は、お店の中へ足を踏み入れた瞬間、あっという間に別の感情に変わった。

 そもそも今までの菜帆は、下着なんてパンツしか穿いていなかった。けれどここにはパンツ以外の下着、ブラジャーがある。パンツも、パンツではなくショーツと呼ぶらしい。

 ブラジャーとショーツは、機能を重視したシンプルでスタイリッシュなものもある。けれど可愛らしい模様が描かれたファンシーでラブリーなもの。スイーツのように甘い色のキュートでフェミニンなもの。大きな花飾りがついた極彩色のゴージャスなもの。細かなレースを重ねた繊細でエレガントなものなど、目的や好みに合わせて様々なものが存在していた。

「菜帆、サイズ測ってもらおう」
「う、うん……」

 サイズを測定されれば、女性とは言え見ず知らずの他人に胸の大きさを知られてしまう。嫌で嫌で仕方がなかった身体の状態を、家族じゃない人に暴かれてしまう。

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