大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!
15.甘やかしと言う名のお仕置き*
 車が走り出すと同時、日織(ひおり)がワクワクした様子で羽住(はすみ)酒造であったあれこれを語り始める。

「それで私、今日は初めて『波澄(はすみ)』の大吟醸をいただいたのですっ」

 どうやら、羽住酒造の看板酒『波澄』には、主力商品となっている吟醸酒のほかに〝幻〟と称される大吟醸が存在しているらしい。

 とうぶんは飲めないと思っていたそれを、今日は特別に利き酒と言う形で振舞ってもらったんだとか。


 日織が今日一斗(いっと)から教わったばかりの知識を鼻息も荒く説明してくれるのを、ハンドルを握ったまま聞きつつ、修太郎(しゅうたろう)は心中穏やかではなかった。

(いくら幻の酒だからってほだされすぎでしょう!)

 日織が日本酒好きなのは知っていたけれど、ここまでとは思っていなかった修太郎だ。

 日織に対する考え方を改めねば、と顔には出さず一人ひそかに嘆息する。


 とりあえず今から結婚式の打ち合わせがあるから、それが終わるまでは保留にするとして……。

(家に帰ったら甘やかしと言う名のお仕置きが必要ですね)

 なんて思っていたりする。
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