ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


その日から瑠佳は学校に行けなくなってしまった。

『ゴメンね、瑠佳。私のせいだ。双子だって自慢しちゃったから』

私をギュッと抱きしめて一緒に泣いてくれたけど、双子であることが佳奈にとっては自慢でも瑠佳にとっては苦痛になってしまっていた。

母に似て社交的で明るい佳奈。職人気質の父に似て、口下手な瑠佳。
外見はよく似ていても、中身は全く違っているのだ。

瑠佳は佳奈と離れようと決心して、高校は別の学校を受験した。
そして合格して佳奈と違う学校に通い始めた時に、やっと『双子』の呪縛から解き放たれたのだ。

『藤本瑠佳』として、自然に息が出来るようになったのだ。

瑠佳の気持ちが落ち着いてからは、また佳奈とはなかよしの姉妹に戻れた。
それに父を亡くしたことで、藤本家では『ある日突然なにが起こるかわからない』という教訓を得ていた。

だからこそ佳奈は『なにかあった時に、父親のことがわからないといけないから』と、父親の名をこっそり私だけに教えてくれたのだろう。
相手の名を、私は胸に刻みつけた。『白石航大』という、姉が愛した人の名前を。
初恋の人だと佳奈は笑っていたが、まさか心配していたことが現実になるなんて思ってもみなかった。
三か月前、人間ドックで佳奈にガンが見つかって緊急入院することになったのだ。

姉は元々胃が弱かったのだが、最近特に調子が悪いとボヤいていた。
ストレス性の胃潰瘍くらいに考えていたらしいが、私は念のため人間ドックを勧めた。
姉は出産後ずっと慌しかったから、検診を受けていなかったのだ。
『祥太のために』と言って検査を受けてもらったのだが、胃のファイバーで腫瘍が見つかった。
それも特に質の悪い悪性腫瘍でかなり進行していた。





< 15 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop