ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
家族になる日
週明けの月曜日。
研究室にいた瑠佳は、社長の山崎に呼ばれた。
普段は足を踏み入れることのない社長室に行くことになって、覚悟していたとはいえ瑠佳は震えていた。
深呼吸してからノックして、声を掛ける。
「藤本瑠佳です」
「入りたまえ」
やや男性にしては高い声が聞こえた。
「失礼します」
社長室には山崎がひとりでデスクに座っていた。
若手の経営者というより、学者のような風貌の男性だ。
シルバーフレームの眼鏡が知的な印象で、若い女性社員から絶大な人気を誇る独身社長だ。
「あの、お呼びだと聞きましたので」
山崎は椅子から立ち上がると、にっこりと笑顔を向けてきた。
「藤本さん、驚きました。あの白石さんとご結婚されるそうですね!」
「は、はい」
「前もって教えてくださいよ。白石さんから連絡をもらって焦りました」
思った以上に気さくに話しかけられて、かえって瑠佳は慌ててしまった。
「も、申し訳ございません」
「先日お知り合いだとはチラッと聞いていましたから、そうなのかな~って思てましたけど」
「え?」
「たまたまこの部屋からあなたが歩いているのが見えたんですよ」
保育園に待ち伏せしたように、いきなり友哉が現れた理由がわかった。
「白石さんも人が悪いですよね。恋人ならそう言ってくれたらよかったのに」
「そんな……」
罪悪感で俯く瑠佳は、山崎から見たら恥じらっているように見えただろう。
「結婚後も研究室での仕事は続けてくれますよね」
「はい。ぜひそうさせてください」
うんうんと山崎は頷いてくれたから、瑠佳もホッとした。
離婚してからも働く場所は必要だから、この会社にいたかったのだ。
「私以外には、今回の結婚は内密にと白石さんからは言われています。まあ、業務提携の時期と重なりますから、その方がこちらも助かります」
「そうなんですか」
昨日会ったばかりなのに、もう山崎社長に伝わっているなんて瑠佳には信じられなかった。
「それはそれは、藤本さんが大切なんでしょう。あなたの生活について、細かくご指示いただいてますよ」