ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました


祥太はまたアニメの見える車に乗ったのでご機嫌だ。

「パパ、また電車で遊べる?」
「ああ、準備しておいたぞ。今度は黄色の新幹線があるぞ」

「うわ~、パパすご~い!」

一週間前とは違って祥太はもう『パパ』という言葉に抵抗がなさそうで、ふたりの会話は本物の親子のようにスムーズだ。

(そういえば、私自身もこの人とは最初から抵抗なく話せている)

今さらのように瑠佳は気が付いた。
いつもは言いたいことが上手く相手に伝わらないのに、友哉とは違った。
佳奈のことを『お金目当て』と決めつけられたから言い返したり、祥太と引き離されないために必死にしゃべったからだろう。

(この人と会う時は、いつも真剣勝負だったからキチンと話せたのかもしれない)

こんな経験は瑠佳にも初めてだ。
物心ついた頃から人と話すのが苦手で、いつも佳奈に助けてもらっていたからやってこれた。
でも、その佳奈はもう瑠佳のそばにはいない。逆に、瑠佳が佳奈の子どもを守る立場になっている。

アニメの話しや保育園の話など、とりとめもなく友哉と祥太がおしゃべりするのを聞いているうちに別荘に着いた。
誰か来ているのか、ログハウス風の建物の前には車が一台止まっている。

「今日は客が来ている」
「え?」

いきなり友哉から言われて瑠佳は困ってしまった。
瑠佳の立場はどう紹介されるのかと戸惑っているうちに、友哉は祥太を抱いてさっさと別荘の中に入ってしまう。
急いで瑠佳も後を追った。

広いリビングダイニングのソファーには、若い男女が座っていた。
友哉はふたりを簡単に紹介してくれたのだが、瑠佳にとっては驚くような相手だった。

「航大の妹の真理恵と、俺の親友で弁護士の三上だ」
「い、妹さんですか?」

航大の妹なら、祥太の叔母にあたる人だ。心の準備をするために、前もって知らせて欲しかった。

「は、初めまして」

おずおずと挨拶したが、真理恵は瑠佳が目に入っていないようだ。

「カワイイ~ッ!」

瑠佳が頭を下げるより早く、真理恵は祥太に抱きついていた。
突然のことに、祥太はされるがままだ。

「しょうたくん? 真理恵ちゃんだよ~。仲良くしてね~」

真理恵は笑顔で祥太の頬に自分の頬を寄せて、スリスリしている。

「くすぐったい~」

「ごめんね~。可愛くてたまらなくて~」

真理恵は祥太を抱きしめてはいるが、涙を流しながら笑っている。
祥太を見て亡くなった兄を思い出したのかもしれないと思うと、瑠佳の胸も痛んだ。


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