ズルい男に愛されたら、契約結婚が始まりました
「まともに争っては、勝てる相手ではないということでしょうか」
瑠佳の質問に、三上は深く頷いた。
「少しあなたと友哉の関係を、整理した方がよさそうですね」
「関係?」
弁護士らしい三上の話し方に、瑠佳は抱えている問題の難しさを感じていた。
「私と真理恵さんは、あなたたちがどうして結婚するのかという理由を知っています。白石文香という人物から、祥太くんを守るための便宜上の結婚ですよね」
「は、はい」
言われた通りなので、瑠佳は頷いた。
「それなら、順番を変えなければ」
「どういうことですか?」
「あなたたちが知り合って、恋をして、結婚してから祥太君が航大の子どもだって分かったことにしないと女帝に怪しまれますよ」
三上の説明は納得できそうで、どこか引っ掛かりを感じる。
「そうでしょうか?」
「そうです。航大の子だと知ったうえで友哉があなたと結婚したなんてバレたら……考えたくないですね」
「そんなにコワイ方なんですか?」
「僕らだって頭が上がりません。娘の真理恵さんだって無理でしょう」
「それなら、無理に結婚するよりこのままの方がいいのでは?」
友哉との結婚を避ける方向に話を持っていこうと思ったが、三上は否定する。
「逃げ続けるわけにもいかないし、あなたひとりでは対抗するのは無理でしょう」
「そうでしょうか」
「お金ならまだしも、強引な手段をとる可能性もあります」
その言葉の深い意味を考えて、瑠佳はピクリと震えてしまった。
「法律に触れることはなさいませんから、心配しないでください。さ、この結婚届けにサインをいただけますか?」
三上は話の途中なのに、いきなり用紙を目の前に出してきた。
「今ですか?」
「はい。私と真理恵さんが証人です。もう友哉は記入しています。祥太君の養子縁組など、必要な手続きは私の方が全て整えますので安心してください」
笑い声が聞こえて、瑠佳は颯太の方を見た。
こんな大事な話をしているのに、友哉は祥太と一緒になって楽しそうに遊んでいる。もちろん真理恵もそばにいて祥太の写真を何枚も撮っているようだ。
「なんだかねえ……」
瑠佳の視線の先にいる三人を見ながら、三上がポツリと呟いた。
「はい?」
「あなたにはご迷惑かもしれませんが、あのふたりは祥太くんが生きがいなんですよ」
「生きがい?」
「ある日突然、航大を失ってしまってから心の支えがなくなっていたんです」
「それはなんとなく……わかります」