一途な御曹司は溺愛本能のままに、お見合い妻を甘く攻めて逃がさない
「今日は、見たいとこ全部見れたのかな?」

 そう聞かれて、実は、と私は息を吐いた。

「セプティミウス・セウェルスの凱旋門は見たんですけど、もう少し見たかったスペイン広場、トレビの泉、共和国広場、コロッセオとかは見れなくて……」
「パンテオンと真実の口とか?」

 鷹也さんは私の行きたかった行先をつけ加える。
 私は驚いて目を見開いた。

「よくわかりましたね!」
「全部観光名所ってこともあるけど、それ、古い映画に出てくるところばかりだから」

「ふふ。たぶんあたりです」

 私が微笑むと、鷹也さんもあたったか、と嬉しそうに微笑んだ。
 それから私を見ると、目を細める。

「よければ、明日、一緒に回る? どうせすぐにはパスポートもできないだろうし」

 突然の申し出に私は息をのんだ。

「え……そんな、これ以上迷惑かけるわけには……」
「いいから。キミみたいな見た目が高校生の女の子一人じゃ誘拐でもされかねないし」

 鷹也さんはそう言って笑う。
 私がむくれて見せると、さらに笑われた。

 でも、その笑い声も、笑った顔も全然嫌じゃなくて、むしろ嬉しくて……。
 私の胸はぎゅうっと掴まれる。

「そういえばキミ―――」
「あの」

 そう言われそうになって私はその言葉を切っていた。

「なに?」
「私には、『藤 沙穂』って名前があります。できれば、名前で……呼んでほしいです」

 自分で言ったことに自分で驚いた。
 変なことを言ってしまった、と後悔していると、その後悔を払しょくするように鷹也さんは微笑む。

「そうだね、ごめん。『沙穂ちゃん』でいい?」
「……沙穂でいいです」

 私が言った途端、「沙穂」と呼ばれる。
 名前で呼ばれて、予想よりはるかに高く心が弾んだ。


―――知らなかった。男の人に自分の名前を呼ばれるのって、こんなに嬉しいんだ。

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