second love secret room クールな同僚医師の彼に溺れる女神:奥野医師&橘医師特別編完結



『さすがに大晦日まで当直、やってないよな・・・』


口ではそう言いながら、自販機であったかい缶コーヒーを買って屋上へ向かう。
階段を一段一段昇る毎にひんやりとした空気が押し寄せてくる。


『こんな寒い中、まさか屋上とかにはいないだろうな・・・』


屋上につながるドアのノブまで冷え切っていて、それを引いてドアを開けた俺はすぐさま両肩を竦めながら白衣のポケットに勢いよく手を突っ込む。


吐く息も真っ白になるぐらい寒いのに、一瞬白く霞んだ眼前には

『大晦日のこんな寒い夜にまで勤務で、こんなところで休憩とか・・・まったく・・・』

白衣の上に見覚えのある桜色のストールを羽織った女神が遠くのほうを眺めながら立っていた。

その後ろ姿もどこか寂し気で、俺は引き寄せられるように彼女に近付いた。
彼女から“引いた”距離で彼女の様子を見ているつもりだったのに、近付かずにはいられなかった。
一歩一歩近付くと、クリアに聞こえてきた彼女の声。


「雪が降りそうだな~。年明けまであと、3分か・・」


大晦日まで勤務を入れて、新年を迎えるとか興味なさそうに感じさせているくせにこっそりとこんなところで新年のカウントダウンをするなんて
この人にひとりきりでそんなことさせたくない

クリスマスイヴの夜に伶菜さんと日詠さんの幸せそうな結婚式の動画を目にしたから余計にそう想う

「来年も一年、元気に仕事ができますように・・・」

そんな中、聞こえてきた彼女の声に
すぐ隣で応える自分でいたい
来年まで待たずに


『来年も元気で・・・来年もよろしくお願いします。』

こうやって今、すぐに応えたい

クリスマスイヴから大晦日までずっと、敢えて“引く”姿勢に徹していたんだ
もうそろそろ“押して”もいいだろ

「・・・橘クン!!!」

暗がりでも、こっちに振り向いた彼女の背後からうっすら電灯の明かりが彼女をそっと照らす。
驚いたその表情もしっかりと見える。

普段の、凛とした雰囲気とは真逆なその表情に
かわいいと口にしてしまいそうな自分がいる。


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