義理の兄妹で恋をするのはフィクションの世界だけだと思っていた



けれど、とある日の学校で。


「…………わぁ…この弁当絶対に私のじゃない…」


昼休みに友達と仲良くご飯を食べる。そんな普通の青春を今日も謳歌するものだと思っていたのに…。


明らかにお弁当の量が全然違う。きっとこれは…駆くんのものだ。


母はしっかりしているように見えて、たまにやらかす…。


「ちょっと隣の教室行ってくる…!」

「おぉ〜いってらっしゃーい。」


仲のいい友達にそう告げて、弁当箱片手に隣の教室へと進んだ。

他クラスの教室に入るのは緊張してしまう。だから中を覗き込んで目当ての人物を探していた。
その時だった。


「あ!のんちゃん!」


周りの視線が一気に集まる。


「ひぃ〜…!」


変な声が出るくらいに動揺した私は、その後、頭を抱えたのは言うまでもない…。

『え、のんちゃん?』
という声が聞こえて、穴があったら入りたいとはまさにこのことだ、と思った。


「カケちゃん、水樹さんとそんな仲良かったっけ?」

「仲なんて…!そんな…!!」


全力で否定しようとした私を無視して、駆くんは話しかけてくる。


「あ、やっぱり気づいた? 弁当交換しよ〜」


この能天気さに今度は頭が痛くなってきた。


「水樹さんが駆の弁当作ってきたの?!どういう関係!?」

「っ…」

「まさか付き合ってる? さすが駆。人気者は違うな〜」

「いや、付き合ってないよ? ただのんちゃんとは…」

「のんちゃんって呼ぶな…!」


発言を遮って強引に弁当箱を駆くんの胸に押しつけた。それから素早くその場を去る。


恥ずかしい。注目を浴びるのは本当に嫌だ。


普通がいい。普通の高校生活を送りたい。


同級生と突然家族になるとかドラマみたいな話、私には起こらなくていい。


「っ…」


何も考えずに、ひたすら廊下を早歩きで進む。
そうして辿り着いたのは屋上へ続く階段を登り切った踊り場だった。


「……本当…ありえない…」


のんちゃんってみんなの前で呼ぶとか、本当にやめて欲しい。恥ずかしいし。

向こうはクラスの中心にいるような人だから。


(………変な噂になったらどうしよう)


ため息を吐きながら、踊り場付近で座り込もうとした時だった。


「のんちゃん、歩くの早すぎ…!」

「……っ…駆くん…!」


振り返ると、少しだけ呼吸を乱した義理の兄の姿があった。


「え…なんで…ついてきたの…?」

「俺の分の弁当渡すだけ渡して、自分の分の弁当持っていかなかった誰かさんのためについてきました。」


スッと差し出してきたお弁当箱は間違いなく私のもの。でもよく見ると、もう片方の手には駆くんのお弁当が入っている手提げ袋があって…。


「一緒に食べようよ?」


と、駆くんはよく見せる満面の笑みを浮かべた。

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