執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
「私、アブダビに来たの2度目なんです。15年前母が懸賞で当たったドバイ・アブダビツアーで来て……そのときも確かにここに来たはずなんですけど、なぜかあまり記憶になくて……誠さんはお仕事で何度か訪れているんですか?」

 お互いのことを知ろう、と言ったのだから先ずは自分から話を振ってみる。

「ああ。優の仕事関係で何度かね。でもここへは15年前一度きたきりだよ」

 15年前、私と同じ。時期は分からないけれど、もしかしたらすれ違っていたかもしれない。ふと、持ってきてしまったバッグの中の写真を思い出す。

「もしかしたら同じ場所にいたかもしれないですね。15年前……13歳の誠さん、見てみたかったです」

「……そうだね。俺もゆきのの子供の頃の写真とかみてみたいな」

「あ、私は宇野家に引き取られてからの写真はあるんですけど……その前のは母が亡くなる前に処分してしまったみたいで殆どないんです」

「残念。だけど俺も同じだよ、九条家に引き取られる前のものはもう残っていないんだ」

 互いにちょっとだけしんみりとした雰囲気になったけれど、すぐに顔を見合わせて静かに笑った。互いの心の寂しかった部分にほんの少し触れられた気がして。
 誠さんの指が私の髪を優しく梳く。頭も撫でられて心地いい。
 昨晩の疲れがまだ残っているのか、あまりの心地よさにうとうとしてきてしまう。
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