執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ
第二話 魔法の絨毯に乗る靴がない
 ◇
 九条誠さんが私の前に現れたのは、その翌日のことだった。
 土曜日の昼過ぎ、携帯に掛かってきたのは九条誠さんからのディナーのお誘い。
 幸い今日はコールセンターの夜勤もないので「ありがとうございます、是非」と答えて電話を切る。

 彼の行きつけのお店があるらしく、迎えに来てくれるという『18時』を手元のメモに残して、気が早いけれどなにを着ていこうかとクローゼットを開けた。
 そこで初めて気付いた。私、九条誠さんと出かけるような洋服なんて持ってない。
 コールセンターでの夜勤は余計な疲れをためないようにパンツスタイルのカジュアルで動きやすい服装を選ぶことが多い。これは友達とファミレスにいくならいいけれど、ディナーの響きにはそぐわない。

 唯一ましなのが、会社への出勤服。ゆるいオフィスカジュアルのため控えめな小花柄の落ち着いたワンピースがある。お気に入りだけれど、これは若干子供っぽいのかもしれない。
 本人から直接聞いたわけではないけれど、妹のきららとネット情報で、九条誠さんは仕事の出来る完璧でクールな御曹司。彼のことを知りたくて、名前を検索したら彼を意識していそうな綺麗なモデルや芸能人も沢山ヒットした。

 きっと日常的に美女が側にいることも少なくないんだろう。それに比べると私はスラッとした高身長でもないし、かといって小さくて愛らしいアイドルのようなタイプでもない。
 せめて、服装だけでもちゃんとしないといけないと思う。
 うーん、と唸ってても状況は変わらないので、私は自分の部屋を出て、きららの部屋を尋ねた。

「うーん……なんか違うね、お姉ちゃんと私じゃ趣味がなあ」
< 16 / 145 >

この作品をシェア

pagetop