教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
「なっ!」

 中に足を踏み入れたとたん、息が止まりそうになった。
 ラウンジの中央で、亜美と田島が向かい合っていたのだ。

「な、何だ?」

 田島が仰天した様子で、顔をこちらに向ける。

 考えるより先に身体が動き、次の瞬間にはヤツに駆け寄って、右腕をつかんでいた。亜美のすぐそばに立っていて、今にもどこかに触れそうだったからだ。

「おい、手を離せよ!」

 田島は俺を振りきろうともがいたが、もちろん腕を放すつもりはなかった。

 一方の亜美は俯いたまま立ちすくんでいる。かすかに震えていて、顔色は真っ青で、ひと目見ただけでひどく怯えているのがわかった。

 他のスタッフの姿は見当たらない。よりにもよって、やはりひとりきりで田島の接客しなければならなかったのだ。

「おい、いったい何のつもり――」

 田島は苛立った様子で俺に向き直ったが、目が合うと、なぜだか急におとなしくなった。

(よし)

 とりあえず暴れる心配はなさそうだ。

「失礼」

 俺はつかんでいた腕を離し、田島に頭を下げた。
 さらにできるだけ穏やかに、亜美から離れてほしいと頼んでみた。

 可能であれば今すぐラウンジから引きずり出したかったが、そんなことをすれば騒ぎになってしまう。
 田島が必要以上に亜美に近づかないでくれれば、これ以上ことを荒立てるつもりはなかった。
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