教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
 もちろん例外もあるけれど、ローマの人たちは彼のように親しみやすくて、世話好きな人が多い。
 
 私がシェアしているアパルタメント(マンション)の家主であるパオラも、ご近所の人たちも、顔を合わせるたびに「何か困っていることはないか」と気にかけてくれた。

「どう? 今朝のエスプレッソもおいしいだろう?」
「ええ、とっても。今日も元気でがんばれそう」
「それならよかった」

 出勤前の親密で、なごやかなひととき――人見知りで口数の少ない私がこんなふうに楽しく過ごせるなんて、日本を発つまでは想像もできなかった。
 もちろん仕事ではきちんとスイッチが入るけれど、プライベートではなかなか他人になじめないのだ。

 とはいえ、イタリア語に慣れるためにはどんどん会話をするしかない。そういう意味で、ジャンニはとてもいい先生だった。

「そうだ、アミ。来月になると、エスプレッソのグラニータを始めるから、ぜひ注文してよ」
「グラニータ?」
「そう。エスプレッソを凍らせて作るんだ。クリームがたっぷりかけてあって、すごくおいしいよ。アミがローマに来たのは秋だから、まだ食べてないだろ?」
「ええ。それ、なんだかすごくおいしそうね」
「チェルト(もちろん)! とにかく最高だから、忘れないでよ」
「……うん」

 私はあいまいに頷き、小さなカップを口に運んだ。

 もともとの勤め先である高砂百貨店からは、ローマでの研修は約八ヶ月と言われている。今の職場では期限延長を打診されているが、夏以降の予定はまだはっきりしていなかったのだ。
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