教育的(仮)結婚~残念御曹司(?)のスパダリ育成プロジェクト~
決意のローマ
 厚いカーテンを開けると、空が白み始めていた。

 窓の外に広がるのは絵画のようなローマの街――。
 もう夜明けだから、イタリアに来て六日目になるわけだ。

 俺は目を閉じて、深く息を吐いた。そうしないと、あまりの幸福感で体が弾けてしまいそうだったのだ。

 今ここでこうしていることが信じられないし、ローマの空港に着いた時にはこんな展開は想像さえしていなかった。

 自分は恋愛とは無縁で、結婚はただの通過儀礼のようなもの――ずっとそう思っていた。
 いや、そもそも研究ばかりしていて、そんなことは頭の片隅にさえ浮かばなかったのに。

(夢じゃ……ないよな)

 俺は目を開けて、ゆっくり振り返った。

(よかった)

 もし何もかも俺の妄想だったらどうしようかと半分怯えていたが、天蓋のついた広いベッドの上にはちゃんと彼女の姿があった。俺がずっと離さなかったせいで、疲れ果ててまどろんではいたけれど。

「亜美」

 安堵したせいか、無意識に唇から彼女の名前がこぼれ落ちる。

 その華奢な白い体を抱いているうちに、俺はいつの間にか亜美を呼び捨てにしていた。
 いちいち「さん」をつける余裕なんてなかったし、そうすることでいっそう親密になれる気がしたのだ。

 だが、いくら気持ちが高ぶって眠れないとはいえ、彼女を起こしてはいけない。

 俺は足音をたてないよう気をつけながら、ベッドへと歩み寄った。
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