好みの彼に弱みを握られていますっ!
 そういえば、確かに指輪がまだだけれど、言われるまでそんなこと、気にもしていなかったのだと逆に気付かされた。

 私にとって大切なのは、物じゃなくて心だったから。

 こんなところでも「形から」整えたい宗親(むねちか)さんと、ズレが生じているんだと胸が苦しくなった。

 でもダメ。
 こんな気持ち、宗親(むねちか)さんに悟られちゃいけない。


「……もぉ、やっと気付いたんですか? 本当遅いですよ?」

 気持ちを切り替えるように宗親(むねちか)さんの方を敢えて向くと、私は目端に滲んでいた涙をわざとらしく彼の前で拭った。

「指輪パッカーン!は女の子の夢なんですからっ! 偽装だから指輪もないんだ!って思ったら、悲しくて泣けてきちゃったじゃないですか」

 私、ちゃんと誤魔化せたかな?
 偽装妻らしく、恩着せがましくふてぶてしい態度で言葉を(つむ)げた?

 はぁ〜っと盛大に溜め息をついて見せながら、内心オロオロしまくっているのはひた隠しにして宗親(むねちか)さんの様子を(うかが)う。

 鋭い人だから真意を見抜かれてしまうんじゃないかと不安だったけど、宗親(むねちか)さんは、私の言葉をそのまま素直に受け取って下さったみたい。

「すみません、春凪(はな)。別に忘れていたわけではないんです。ただ、1日も早く籍を入れて、現状を打開したかったというか……。その――」
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