好みの彼に弱みを握られていますっ!
「あ、あのっ、その半休の時のっ、ほ、ほたるとのあれこれのお話、聞いてくださいっ!」

 ドキドキに手が止まっていて、カレーの表面にポコッポコッと気泡が上がってきたのに気付いた私は、慌ててお玉で鍋底付近を入念にかき回した。



***


 宗親(むねちか)さんに抱きしめられたまま、何とかカレーを温め終わった私は、「ご飯、好きな量よそってください!」と腰に回された彼の手をペチペチ叩いて引き剥がしに成功した。

 リビングでは、わざと対面になるようローテーブルにカレー皿を置いてから、ラグの上にこぢんまりと正座して。

 同じようにソファーを背もたれにするみたいにラグ上であぐらをかいた宗親さんに、今日あったことを話し始めた。


「ねっ? ねっ? すごいと思いませんか? もぉ〜私、嬉しくって!」

 色々あって、話すのを我慢していた分、お口がいつも以上に高速に回転中です。

 食べるのも忘れて、私はマシンガンのようにほたるの恋心について捲し立てた。

「まぁ、とりあえず落ち着いて、春凪(はな)。せっかく熱々で出したんだから冷めないうちに食べてから話しましょう?」

 さすがに勢い込みすぎて、宗親さんに苦笑されてしまった。

***

「それで、どうするのが正解だと思います?」

 夕飯を食べ終えて、食器洗いを食洗機にお任せしてから、私はソファに腰掛けて宗親(むねちか)さんに問いかける。

「どうもしないのが正解な気がしますけど……それじゃ、春凪(はな)は納得しないんですよね?」

 言われて私はコクッと頷いた。

「だとしたら……動かすべきは明智(あけち)の方かな」

 女の子に行動させるのは男としてどうかと思いますし、と続ける宗親さんを見て、私の時にも宗親さんがガンガン動きまくって下さったっけ……と罠にかけられたアレコレを思い出す。


 目の前には良く冷えたペールエールビールと、チェダーチーズで作った手作りのサクサク煎餅が三種類。

 私が食器を片付けている間に宗親さんが、チェダーチーズの大きな塊をシュレッドして、オーブンでカリカリに焼いて下さったんだけど、何て言うのかな。
 本当この人は何でも卒なくこなせてすごいなって思った。


「冷ましたつもりですけど……火傷しないように気をつけてくださいね」

 こんがり狐色に焼けた三種のパリパリチーズ煎餅を前に目をキラキラさせた私に、宗親さんが保護者のような温かい笑顔を向けてくださる。
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