優しくない同期の甘いささやき
攻められて
薄曇りの空から微かな日射しが降り注ぐ午後、私は会社のロビーの椅子で待っていた。

待ち人は、忘れ物をして上の階に戻っている。

スマホを見ながら待つこと数分、「悪いな」と頭に手が乗った。


「他に忘れた物、ない?」

「ああ、ないよ。行こう」


待ち人である熊野と並んで、外に出た。今日は少し蒸し暑い。

最近雨の日が増えてきている。そろそろ梅雨入りしそうだ。

私は、半袖ブラウスに薄手のカーディガンを羽織っている。熊野はノーネクタイで、長袖の腕をまくり、スーツの上着を持っていた。

あまり熊野と外出することはない。今日は冬から発売予定の電気ケトルの打ち合わせで取引先に出向く。

この電気ケトルはコーヒーチェーン店とのコラボ商品で、店のキャラクターが描かれている。

コーヒーチェーン店とわが社のオンラインショップの二か所だけで、限定販売することになった。

今回始めての販売で、季節ごとキャラクターデザインを変えて、一年間販売予定だ。

コーヒーチェーン店の本社ビルの受付横には、キャラクターの大きなぬいぐるみが置かれていた。
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