8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
  *  *  *

 騎士の数名が、後宮のドアをたたく。

「カイ、どけ。王命でフィオナ様をお連れするのだ」
「いやでも、なんかフィオナ様、てこでも出てこない感じですけど?」

 突如フィオナに呼ばれたカイは、理由もわからぬまま後宮の入り口に立ち、来た人間を追い返そうとしていた。

「いいから、どけ」
「いやいや、なんにせよ、王太子妃の後宮に騎士団が押し入るってのはおかしいでしょう。必要なら説得してお連れしますから」

 カイと騎士団の言い合いを、フィオナは居間からこっそりと眺める。

「リーフェ、お願いがあるの。風を起こしてこれを王城内に広げて」

 渡したものは、ホワイティに作ってもらった、洗脳を解く薬だ。

『わかった。いいよー』

 聖獣は気軽に請け負い、空へと飛びたつ。

「かーたま……」
「かーた」

 不安がるアイラとオリバーを、フィオナは抱きしめた。

「大丈夫よ。お父様が……オスニエル様がきっと来てくれる。それに私たちにはドルフもリーフェもいるわ。力で負けることは絶対ない」
「じー、ぼく、きらい?」

 オリバーが途方に暮れたようにつぶやいた。泣きださないところがむしろ痛々しい。

「そんなことないわ」
「でも」

 落ち込むオリバーをアイラが抱きしめる。

「アイラ、オリバー好き」
「そうね。母様もオリバーもアイラも大好きよ」
「でも……」
「あのね、オリバー。おじいさまは知らないのよ。貴方のことを」

 オスニエルだって、最初はそうだった。フィオナのことを、『ブライト王国の姫』としか見ず、その心の内を見ようともしてくれなかった。

「あなたのことを知ったら、きっと好きにならずにいられないわ。だから、今度からもっとお話ししに行きましょうね」

 オリバーはまだ不安げだ。たしかに、一方的に否定されるのはつらいし、ならばかかわりたくないというのは、フィオナもそうだったから理解できる。

「オリバー。生きていく場所って、結局は自分で作らなければならないの。だから、嫌なことから逃げ続けても駄目。もちろん、無理なのにずっとい続けることはないけれど、最初からあきらめるのはもったいないわ」

 自分の経験をもとに、フィオナは告げる。オリバーはわかったようなわからないような顔をして、頷いた。
 まだ幼い子供たちには、わからなくてもかまわない。これから長い年月をかけて、フィオナとオスニエルでそれを教えていくのだから。
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