8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
『あ、あちらに行ってくださいまし』
『しかし、ご令嬢。こんなところにいては危ないですよ』
『へ、平気ですわ! お花、そう、お花をとってきてくださいな。この庭で一番きれいな花ですよ!』
とりあえず難題を押し付けて消えてもらい、その間に逃げようと思っていたジャネットは、彼が枝に手をあてて、ますます逃げられないように囲ってくるのを見て困惑した。
『あ、あの』
『仕方がありません。この庭で、一番きれいな花がここにあるのですから』
『え?』
『あなたが一番きれいですよ。ジャネット様』
言葉だけで聞けば、あまりにも気障な一言だ。少なくとも、兄からもオスニエルからも、こんなことは言われたことはない。でも、彼は本心から言っているんだろうなと、不思議と信じられた。
それでもその時、ジャネットの心はいじけてひん曲がっていた。なにせ、結婚すると思っていた相手から拒否されたのだ。自分なんて全く魅力がないのだろうと思ってしまっていた。
『お世辞など結構です。どうせ私など、魅力がないのですから』
『オスニエル様のことですか? あの方は、職務に一途ですからね。ジャネット様が駄目なのではなく、今はどの女性が相手だったとしても駄目だったと思いますよ。……おかげで、私もあなたと知り合うきっかけをいただけたわけですが』
差し伸べられた手は、強引ではないが、有無を言わさぬ強さがあった。
『後で戻るからあっちに行ってください』
『いつまでもそんなところにいると虫が寄ってきますよ』
『虫は平気です。それより、……隠れていたから、髪が乱れているの。……恥ずかしいから見ないでくださいな』
真っ赤になったジャネットに、ユーインはますます笑った。
『ではなおさら、私に摘まれるとよろしいですよ。花の扱いには長けていますから』
ナンパ師のような言葉にも思えたが、ジャネットは彼の手を取ってしまった。
庭にある東屋に連れてこられ、椅子に座るように促される。じっとしていたらユーインが髪を直してくれた。
「男の方なのに髪を結えるの?」
「姉がいるので、侍女がしているのを見て覚えました。手先を使うことが好きなのですよ。男らしくないと叱られますがね」
シュルリとリボンの滑る音がする。花の香りが鼻孔をくすぐり、穏やかな日差しが、ジャネットの頬を染めていく。