8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~2
「素晴らしい屋敷だな。ダレン」

 現ロイヤルベリー公爵ダレンは、オスニエルより四歳年上だ。彼が王都の大学で学んでいた時に交流があり、ふたりは名前で呼び合う間柄である。

「お褒めにあずかり光栄です。こちらの屋敷にいらっしゃるのは初めてでしたね。庭園が自慢なのですよ。後でジャネットに案内させましょう」
「ジャネット? いるのか?」
「ええ。殿下はご存知ありませんでしたか? 輿入れ先のブレストン伯爵子息ユーインとは死に別れましてね。子もいなかったことから、今は我が家に戻ってきているのです」
「そうだったのか」

 ジャネット・ロイヤルベリーはオスニエルの最初の縁談相手だ。公爵家は王家に次いで帝国の血が濃く、オスニエルと同じ黒髪を有しているジャネットは、国王のお気に入りだった。舞踏会では何度か踊ったこともある。しかし、当時のオスニエルは結婚そのものに興味がなかった。ジャネットに対しては好きも嫌いもなかったが、縁談は断るの一点張りで破談にしたという過去がある。

 その頃のオスニエルは自分で言うのもなんだが人でなしなので、断られたほうの気持ちなど一切考えなかったが、思えば年頃の娘がほぼ決まりかかっていた縁談を断られたのだから、傷ついていたのかもしれない。
 今さらながらに、気まずさを感じる。

「いや……」
「オスニエル様、お久しぶりです」

 奥の方から、妙齢の女性が現れた。緑がかった黒髪は、サイドに緩く編みこまれ、うしろでひとつにまとめられていた。
 あまり陽の下にはいないのではと予想させる白い肌に、艶めいた薔薇色の唇が映える。通った鼻筋に、伏し目がちな瞳。落ち着いた紺色のドレスは、楚々とした彼女によく似合っていた。
 まだ十代のときから、あまり派手ではない女性だとは思っていたが、寡婦となったことにより、余計そういった印象を与える格好をしているようだ。

「ジャネットか」

 オスニエルは彼女が近づいてきた途端、違和感を覚えた。

(……なんだ? 香り?)

 彼女からは花のにおいがした。そういえば、ロイヤルベリー家が押し出そうとしている産業は香水だったと思い出す。悪いにおいではないが、どことなく胸をざわつかせるような感じがする。
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