偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「君が優秀な救命医なのは私も承知している。人間的にもいい若者なんだろうと思う」
「じゃあどうして」
焦る気持ちから、俺は高城先生の言葉を遮った。

「2年前の事件で、君は随分世間の目にさらされたね?」
「ええ」

週刊誌もネットの記事も面白おかしく取り上げてくれて、かなり名前を売ってしまった。
でも、俺自身に後ろめたいところはない。

「もちろん君も被害者なのは知っている。それでも、事情を知らないやじ馬は好きなことを言うだろう」
「そうですね」

野次馬どころか、事件後に入ってきた研修医たちは俺に対して距離をとろうとするし、あからさまに避ける同僚だって未だにいる。
もちろん実際に働いてみれば誤解も解けて打ち解けあえるんだが、それまでに多少の時間がかかる。

「真理愛にそんな苦労をさせたくない」
「しかし、それは」
俺のせいじゃない。
完全に言いがかりじゃないか。

「それに、真理愛の母親は精神的に弱いところがあって小さいことをとても気にするんだ。君だって、さっきの妻の様子を見ていたらわかるだろ?」
「ええ、まあ」

先ほど真理愛のもとに駆け付けたお母さんはだいぶヒステリー気味だった。
高城先生がいなかったらきっとパニックになっていたところだろう。
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