偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「こんにちは」

病室の扉を開けると、お父さんがベットに座っていた。

「おお、来たな」
私に向けて差し出されたお父さんの手。

もちろんそれは私に抱擁を求めるためではない。

「あぁー」
私の左腕からも応えるように声が上がった。

今、私が抱える小さな温もり。
それは3か月前に生まれた息子、敬也(たかや)だ。

「また重たくなったじゃないか?」
敬也を抱き目じりを下げるお父さん。

「そうでしょ、そろそろベビーカーを買わないと私の腕はパンパン」

日に日に大きくなる敬也を抱いたままの移動はもう限界。
左手に敬也、右手には荷物、その上赤ちゃんのお出かけに必要な着替えやミルクやおむつをリュックに詰めたらもう荷物が歩いているみたい。

「免許を取って、車を買えばいいだろ」
「そうねえ」

田舎に住んでいれば車は必須。
車があればどこに行くにも便利だけれど、

「金の心配か?」
「うん、まあね」

あと一年くらいすれば、敬也を預けて仕事に出るつもりでいる。
それまでには免許もとって中古でもいいから車を持とうと思うけれど、今はまだ時間もお金もない。
それに、解決しなければいけない問題も山積。
来年、おじさんと約束の2年を迎える時には敬也のことも話さなければいけないだろうし、そうなればきっと敬にも知られることになる。
もちろん、何を言われても、どんなに反対されても、私は敬也と生きていこうと覚悟を決めているけれど、それまでに生活の基盤を作っておかなければ何も言えない。

「安心しろ、何があっても父さんは真理愛の味方だ」
「うん、ありがとう」
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