偶然から始まった恋の行方~敬と真理愛~
「おめでとうございます」
30時間にも及ぶ長い苦しみの後生まれてきた命。
名前は敬の字をもらって敬也(たかや)とつけた。
かわいくてうれしくて抱きしめただけで涙が溢れたけれど、現実はそう甘くない。


病院を退院し家に帰ればそこはもう子供と私だけの世界で、愛おしい存在ではあるけれど、育児への不安や戸惑いで眠れない日を過ごした。

そんな時に声をかけてくれたのが大家さん。
「産後は大事にしないといけないから」と毎日のように食事を届けてくれて、入浴やゲップのさせ方まで教えてもらった。
「泣きたいときは泣かせてやりなさい」「いつか抱っこしたくてもできないときがくるんだから、今を楽しまないと」そう言って家事や私の世話をしてくれる大家さんに助けられた。


生後1か月を過ぎやっとお父さんのところに行けるようになると施設の看護師さんたちが代わる代わる抱っこしくれて、育児の悩みを聞いてもらい育児のコツを教えてもらった。


「どうした?」
この3ヶ月を振り返って感慨にふけっている私を不思議そうに見るお父さん。

「ううん、何でもない」

私は自分のことを不幸だと思ったことはない。
お母さんのパーソナリティーには疑問があるけれど、それでも今まで不自由なく育ててもらった。
それが当たり前のことだと思っていたけれど、きっと大変な苦労だったことだろう。親になってみてやっとわかった。
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