追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「モニカ様、あの」

後ろに戸惑った声がして、モニカはやっと侍女に目を向けた。

彼女は十八歳と同じ年でモニカより十センチほど背が高い。

肩の長さに揃えて切られたストレートの髪は青みがかった黒い色をして、リボンのカチューシャをしている。

シックな色合いのエプロンドレスを纏い、背筋を伸ばしてお腹の前で手を組んでいた。

奥二重の紺色の目に眼鏡をかけ、真面目な印象だ。

昨夜、この部屋に案内してくれたのも彼女だが、モニカの世話をする侍女だという説明と簡単な挨拶、それから『陛下とのご婚約おめでとうございます』と言われただけであった。

「興奮してごめんなさい。あなたのお名前は、ええと……」

「ガストル男爵の四女、ナターシャと申します」

「そうそう、ナターシャさん。なっちゃんと呼ぶわ」

「なっちゃん?」

ナターシャは驚いた顔で問い返し、それからクスクスと笑った。

「ロストブ流なのでしょうか。変わった呼び名ですね」

というよりモニカ流だ。

身近な人にあだ名をつけるのはモニカくらいのものである。

一気に親しくなれる方法ではあるが、本名を忘れがちなのが難点だ。

「嫌かしら?」
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