契約結婚のススメ
 心の中で叫び、テーブルの下で見えないようにギュッとこぶしを握る。

「ヒヨコさんは」

 ハッとして顔をあげると、口もとに手の甲をあて今にも吹き出しそうに笑いをこらえている彼が私を見ていた。
「ヒヨコでいいですよ」

「そっか。じゃあヒヨコは、これから買い物?」

「はい。お土産にお財布を買おうと思って」

「じゃあついでにちょっと付き合ってくれないか? 俺も土産を買いに来たんだ。ボーディガードをしてくると助かる」

 ボディーガード?
 ふ、ふふ。またからかってるわね。

 まあでも。
「いいですよ。じゃあこの後、早速ブティック巡りをしましょうか」

 びっくりするようなイケメンとデート。
 人生に一度くらいこんな夢みたいな出会いがあってもいいよね。

 ローマの青空と一緒にまぶしいほど素敵な彼の笑顔を見上げながら、私はそう思った。


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