月の砂漠でプロポーズ
逮捕
「失礼しまーす」

 挨拶しながら押し入れを開けた。
 本、本、本。
 お布団が真空パックに入れられている以外、一週間分くらいの洋服しかなかった。

 布団の上には封がされていない封筒。
 見るべきではない。
 押し入れの戸をあけて、しばらく空気の入れ替えだけをしよう。

 なにかの弾みで封筒が畳に落ち、中から鍵が出てきた。

「いけないっ」

 鍵をしまい、封筒を元の場所に戻そうとして銀行名が書かれているメモが入っているのに気がついた。

 きっと貸金庫の鍵だ。
 じんわりと涙が滲みでてくる。

 海外を飛び回っていると聞いた。
 危険なこともあるだろうから、万一のときの後始末の為のものを入れてあるのだろう。

 本以外ほとんどなにもないのも、渡会さんも旅人だからかもしれない。

 客室が至れり尽せりなのも、旅人への配慮なのだろう。
 知らない家で困ることのないように、家人の手を煩わせまいと我慢しないようにとの。

「渡会さんの傍にいたいよ……」

 貴方の人生に私は必要じゃないだろう。
 もしかすると、誰も必要としていないのかもしれない。
 けれど私はどうしようもなく渡会さんと人生を歩みたくなってしまった。
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