皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
「ミレーヌ……」

 兄よ、あなたも第五騎士隊の副隊長ではありませんか。それくらいのことで泣くのはおやめください。と、ミレーヌが思ってしまったということは、この兄も大泣きし始めたということで。

 父と兄が、声をあげてうぉんうぉんと泣いていた。
 いまだに猫はにゃーにゃー鳴いているし、犬もわんわんと吠えている。そこに大の男がうぉんうぉんと泣いているものだから、もはや、何の鳴き声なのかもわからなくなってしまっていた。ここに母親がいてくれれば、なんとか二人を止めてくれたかもしれない。だけど、母親は不在。言うべきタイミングを間違えたか、と思わずミレーヌが後悔してしまったほど。

 そしてミレーヌは、二人をこんなに泣かせてしまったことに心が痛んだ。
 心が痛む理由としては『騎士と結婚したい』というのは、実は嘘だから、だ。
 それを嘘だと明かしてしまうと、今度は違う意味で泣かれてしまうと思ったミレーヌは嘘をつき通すことにした。『騎士と結婚したい』ということにしておく。

 そんなミレーヌの本音だが、本当はあの第一皇子と結婚したくないから、である。嘘である『騎士と結婚したい』というのは『ついで』にしておくことにした。そのうち嘘でなくなることを祈って。

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