悪役令嬢は騎士の腕の中で啼く――婚約破棄したら、爵位目当ての騎士様に求婚されました――


 生真面目なシルヴァの規則正しい行動は、皆の間で有名なようだった。

『リモーネお姉様、この時間ならば、騎士団の詰め所の前で待っていたら、シルヴァ様にもお会いできるはずです』

 ペルセ伯爵令嬢に教えてもらった私は、彼女の言う通り、騎士団の詰め所の前に立ち尽くしていた。

 しばらくしていると、予言通り、シルヴァが姿を現した。
 黒い騎士団のコートに身を包んだ長身痩躯の青年。
 短い銀の髪に、翡翠のように綺麗な碧の瞳が、陽の光に煌めいていた。
 精悍な顔立ちだが、不愛想な表情を浮かべたシルヴァは、私のことを見つけ、目を見開いている。

「リモーネ、どうして、こんなところに?」

 問われた私は――。

『城とは逆方向に向かう理由を聞きに来たの』

 ――そう聞いても良かったが、まずは警戒されないように他の話題を振る。

「お弁当を持ってきたの」

「そうか。ありがとう」

 淡々とした反応だが――。

(私には分かる……お兄ちゃんは喜んでいるわ……!)

 嬉しそうなシルヴァは、今日がお弁当の日ではないことには気づいていないようだった。

「せっかくだから、中に」

 彼に促されて、私はシルヴァの執務室へと向かうことになった。
 部屋は殺風景で、隅には甲冑が飾られている。有事の際には、これを着て、シルヴァも戦いに参じるのだろう。

「お兄ちゃんに質問があるの」

 部屋に着いてそうそう、私は彼の袖を引いた。
 シルヴァは窓の外の太陽の位置を確認すると、私に声を掛けてくる。
 
「騎士達の訓練までまだ時間はあるか。どうした、リモーネ」

 ちょっとずつ核心に近付くように質問をはじめた。

「あのね……馬を操るのに長けた、お兄ちゃんにしては、出仕が遅い気がしたのだけど……」

 私の言葉に彼は無言だった。

「その、どこかに立ち寄っていたの?」

 だが、シルヴァからは反応がない。

(もう、まだるっこしいから、聞いちゃいましょう)

「実は、私、シルヴァお兄ちゃんが、城とは反対の方向に朝向かっているのを知っているの……」

 外からは小鳥の囀りが聴こえてくる。

 だが、やはり彼は無言だ。

(お兄ちゃん、何も答えてこないわ……)

 すると――。

「リモーネ」
 
 彼の大きな両手が、私の両肩に乗ってきた。

 すっと影が落ちたかと思うと――。

「んんっ……」

 ――彼に口づけられてしまっていた。

 啄むような口づけが繰り返された後、彼の舌が口の中に侵入してくる。

「あっ……お兄ちゃんっ……は……ふ……」

 息継ぎをした後、彼の舌が私のそれに激しく絡みついてくる。
 くちゅくちゅとした水音が、部屋の中に響いた。

「は……俺の可愛いリモーネ」

 ドレス越しに、彼の手が、私の背から腰にかけてを擦る。
 触れられるだけで、きゅうっと身体の芯が疼いた。
 熱っぽく名を呼んでくるシルヴァによって、私の身体は扉まで追い詰められる。
 もう片方の彼の手が、胸の膨らみを包み込んだかと思うと、ゆっくりと変形させはじめた。

「あっ、シルヴァお兄ちゃっ……ここはお城で……」

 だが、彼の動きは止まらない。
 脚の間に、彼の膝が差し込まれる。

「ふあっ、あっ……お兄……」

 深い口づけと、乳房への刺激で頭がおかしくなりそうだ。
 快楽に流されそうな中、私の頭の中では警告が鳴り響く。

(――シルヴァお兄ちゃん、何かを誤魔化してる――!!!?)

「リモーネ……」

「お、お兄ちゃんっ……やあっ、ダメっ……」

 ――真実を問いただすべく、私は必死に快感に抗うことにしたのだった。



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