君との恋の物語-Blue Ribbon-

何度でも

上手と下手に分かれて舞台の奥側に座る人から順番に入場する。

全員が座ると、最後に1人遅れて登場し、客席に向かって礼をする。

今回、それは恵美先輩だった。

コンサートミストレス。

それは、私たちの学校では【クラリネットのトップ】が務めることになっている。

Aブラスはもちろん、吹奏楽の授業でもそれは同じ。

恵美先輩は、2年生からAブラスに合格していいて、しかも去年もコンミスを務めていた。

本当に本当に尊敬する。大好きな先輩。

今日は、先輩の隣で吹ける最後のチャンス。絶対に後悔したくない。

その為にも、平常心、平常心。

恵美先輩に向けられた拍手が鳴り止む頃、指揮者の先生が舞台上へ。

合図でステージにいる全員を立たせる。

バンドが全員正面に向き直ると、先生と恵美先輩は握手。

そして全員着席。客席の拍手も鳴り止んだ。

いよいよね。

先生の手が上がり、私達も楽器を構える。

最初の曲は、クラのアンサンブルから始まる。

やや弱音だから緊張するけど、大丈夫。

何十回も何百回も練習したんだから。

音程に気を遣いながらもスタートはスムーズだった。

いい感じ。さすが、選抜メンバー。

クラのアンサンブルから始まった音楽は、フルート、サックス、ホルンと演奏者が増えていき、ティンパニのロールでクレッシェンドがかかってトランペットとトロンボーンの旋律に引き継がれる。

ここまでの受け渡しも、綿密な練習の成果でかなり綺麗に演奏できた。

すごくいいわ。

前半部の難所を越えたところで、クラは少しだけ休みになる。

リードも特に問題ないし、出番まではそのまま待っていた。

ホルンとユーフォのユニゾンで、中間部の旋律が紡がれていく。

クラは3パートで伴奏に入る。

ここを抜けると、1stクラは2パートに分かれて吹く。

役割は、私(下パート)は他パートと一緒に伴奏。

恵美先輩(上パート)はオーボエとのソーリ。

ここ、本当好き。

恵美先輩らしい瑞々しく艶のある音色がすごく活かされるから!

さすが先輩。本当上手。

私は、自分も隣で吹いているにも関わらず、先輩の音に聴き惚れていた。

客席からも、拍手が起きそうなくらいのテンションを感じた。

2人のソーリが終わると、いよいよクライマックスに向かう。

一度、ファゴットを中心とした木管低音だけになり、低音域から順番に人数を増やしいてく。

クラが入っても、まだまだクライマックスには余力を残しておく必要がある。

ここは慎重にいかないと。

いよいよ金管楽器も参加し始め、一気に盛り上がっていく。

そして最後にトランペットが高々と吹き始めると同時に、小太鼓がロールを始める!

そう、恒星だ!

恒星は、バンド全体を包み込みながらも決して邪魔にならない絶妙なバランスでクライマックスを作り上げている。

私も吹きながら何度も鳥肌が立って涙が滲んだ。

すごい。すごいすごい!!私、こんなに素晴らしいバンドにいるんだ!!

全員で最後の1音を奏でて、1楽章は終わった。

拍手こそ来なかったものの、客席からすごいテンションを感じた。





最高だったわ。今日のステージ。

今年一年で、いや、私が今まで経験した本番の中で1番良いものだった。

尊敬できる先輩方に囲まれての本番。

聴こえてくる全ての音が素晴らしかった。

そして、中でも一際良い音だった人達がいる。

恵美先輩はもちろん、増田先輩、真里先輩、他にも、金管楽器に2名。そして恒星。

この人達は、全員で吹いていても聴き取れるくらい良い音だった。

一言で言えば、次元が違う。どうやったらあんなふうになれるんだろ?


Aブラスの中に、こういう人達がこんなにもいるのが

実は珍しい事だということを、私は後で知ることになる。

今日、私がこの人達と同じレベルの演奏ができていたかはわからないけど、

はっきり言えることは、こう言うステージに、何度でも立ちたいと思ったということ。

本当、吹いている自分達も演奏の良さを感じることができるなんて、中々ないと思う。

自分より上手い人達と演奏するって、とても大切なことなんだなって改めて思った。


プロになったら、こう言うステージが当たり前になるんだと思うと、それだけでワクワクする!

私は、もっともっと上手くなって、これから何度だって今日みたいな体験をする!

私なら、きっとできる!そんなふうに思った。





演奏会後は、ステージ裏で挨拶に回った。

先輩達も皆で話していた。やっぱり、今日の本番はいい物だったんだと確信する。

先輩達が、皆すごくいい笑顔だったから!

私も釣られて笑顔になった。

最高の気分だった。この学校に入ってよかったって心から思ったし、クラを続けていて本当によかったと思った!


挨拶回りが一通り済んだ頃、私の近くに恒星がやってきた。

黙って右手を差し出してくれた。

そのまま静かに握手する。

『ありがとう、結。結がいてくれたから、俺は今日、このステージに立てた。一緒に頑張ってくれてありがとう。』

私は黙って頷く。涙が溢れた。

でも、ちゃんと伝えなきゃ。

「私が言おうと思ってたのに!」

2人で笑い合った。涙を浮かべながら。

そこで、真里先輩が駆け寄ってくる。

『ほらお2人さん!片付けたら打ち上げだよ!』

2人とも真里先輩に引っ張られる形で強制的に連れて行かれた。

うん、恒星とはまたゆっくりはなそう!

今日はまだまだ長い!打ち上げも思いっきり楽しまなきゃ!
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