辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2
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 無心に剣を振るって汗をかくのはとても気持ちがいい。

 急激に近代化の波が押し寄せてきたため、近年の戦いと言えば、銃をいかに使いこなすかが明暗を分けるとされている。国防を担う辺境伯であるセシリオは、もちろんそのことを重々承知している。しかし、従来の火縄銃といい、近年普及し始めたマスケット銃といい、火薬を仕込む時間が必要になるため、一回の攻撃をしてから次の攻撃を開始するためにはどうしてもタイムラグが生じる。銃士隊を何列かに編成するなどの工夫はするが、それにも限界がある。そのため、敵との距離が近くなると一番効果を発揮する武器はやはり今も剣だった。

 ヒュン、ヒュンと小気味いい音が鼓膜を揺らす。その音に混じり、遠くからカタンと物音がしたのに気づき、セシリオは動きを止めた。音の方向を見て、予想外の人物に目をみはった。

「サリーシャ? どうした、こんなに朝早くから」

 今はまだ、早朝だ。セシリオはいつも朝早く起きるが、貴族令嬢といえば朝はゆっくりとしているのが定石。アハマスにいるときもサリーシャは朝食に合わせてゆっくりと起きるのが常だった。サリーシャはセシリオの近くまで駆け寄ってくると、足を止めて見上げてきた。

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