片想い婚
 せっかく止まった涙がまたこぼれ落ちる。そんな私を見て、彼は何も言わずに指輪をはめてくれた。左手の薬指がくすぐったくて、違和感だ。

 輝く小さな石が、あんまりにも美しかった。それを目に焼き付けながら蒼一さんの顔を見上げてみれば、優しく微笑んでいた。

 声にならない声ではい、と言い、私は何度も頷いた。

 こんな言葉をもらえる日が来るなんて想像もしてなかった。だって、私たちの始まりは突然の結婚式から。心も通じ合えないまま過ごしてきた。好きですと言葉に出せずに押し殺す毎日だった。

 流れる涙を、蒼一さんが再び拭いた。そして笑顔を無くし、少しだけ私から視線を逸らした。

「でも……もしかしたら。咲良ちゃんには苦労かけることもあるかもしれない」

「え?」

「思い描いていた生活にはならないかも。
 それでも、僕の隣にいてくれますか」

 真っ直ぐな瞳に見つめられ、一瞬息をのんだ。それは蒼一さんの言う『苦労をかける』なんて言葉のせいではなく、彼のガラス玉みたいな目があまりに綺麗だったからだ。

「蒼一さんが隣にいてくれるなら……私にとってどんな人生も幸せです」

 今度はしっかり声を出して伝えた。掠れた声で格好はつかなかったが、とにかく彼に伝わればそれで十分だと思った。

 再びゆっくりとその腕に包まれる。今度は優しい力だった。緊張と安心感という両極端な感情に挟まれ、ただ必死に彼のシャツにしがみついた。

 何かを決意するように、蒼一さんが頷く。

 

 車の外は分厚い雲が未だ空を覆っていた。

 私たちを見守っていた月さえも、まるで隠れるように見えなくなった。


 


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