片想い婚
 ポツリと呟く。そして、私は咲良のそんな相手を誰一人知らないということに気付かされた。

 結婚式だって、咲良の友人を呼んで挙げたわけではない。昼間は自由に遊んでいいよと言っていたが、どこで誰と出かけていたのかまで聞いていなかった。

 ああ、こういうところなんだ。私たちの距離は。

 お互いを探りながら交わす会話。それはやはり夫婦ではなかった。

 愕然としながら困惑していると、ふと部屋のテーブルの上にあるものが置いてあるのに気がついた。近づいて覗き込む。それは私が咲良に贈った結婚指輪だった。

 その傍にメモがある。『お世話になりました、とても楽しかったです。ありがとうございました』可愛らしい字で短く書かれていた。

 力の入らない手先で指輪を手に取る。あの日以来、咲良がこれをはめている姿を見たことはなかった。自分の左手に付けられている傷だらけのものとは違い、新品同様のそれが酷く心を痛ませた。

 手のひらで指輪を握る。

 まだだ。まだ終われない。

 私はスマホを操作し、ある人に電話をかけた。どうか出てくれ、と心で祈っていると、相手はとても軽い様子で電話に出てくれたのだ。

『もしもーし? 珍しいわね蒼一』

 久しぶりにきく綾乃の声だった。私はその瞬間ホッとする、そしてすぐに綾乃に助けを求めた。

「綾乃! 咲良が出ていった、どこにいるか分からないか?」

 経緯も何も話さずそう言った。よほど自分が混乱していることがわかる。案の定、綾乃は面食らったように言った。

『え? 何よ喧嘩でもしたの?』

「そんな生易しいものじゃない。実家には帰ってなくて、友達のところにいるらしいんだ。でも全然分からなくて」

『何があったの? だってあの咲良が出ていくなんて考えられない。いつものほほんとしてて大概のことは笑って許すでしょう?』

「全部僕が悪い」

『よっぽどのことしたのね。あれだけあなたに一途な咲良が出ていくなんて』

 サラリとどこか面白そうに言った綾乃の言葉を聞いて、私は言いかけた言葉をとめた。

 あれだけ あなたに 一途な咲良が……


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