好きになったのが神様だった場合
「毎日だ、毎日会わぬといなくなってしまうぞ?」
「んもう、すぐにそうやって脅すぅ」

しかし元が不安定な存在だ、本当に消えてしまうかもしれないと不安になる。

「明香里がいないと、駄目なのだ」

いって顔を上げる、明香里の顔のすぐ近くだ、そのまま近づく気配に明香里は目を閉じる。
隣から遠慮ない咳払いが聞こえた、サラリーマンと見える男性が座っていたのを知っている、きっと人目のはばからぬキスに呆れているのだろうと思う。それでも求められれば嬉しくて、拒絶などできない。
長いキスが離れると、額どうしを突き合わせた。

「明香里もそれくらい俺を求めてくれ」

ささやくように言われ、明香里は頷く。

「私だって、天之くんがいないと死んじゃうよ」
「それはいかん」

微笑み再度キスをする、それによって天之御中主神が顕現したように、明香里もこの世の繋ぎとめてくれるような気がした。
心地よさに、明香里は身を任せてしまう。





昼前には仙台に降り立った、新居へ行く前にと3人そろって水天宮を訪ねる。
健斗も初めての水天宮だ、社務所を見つけそちらへ歩いていく。その後を明香里と天之御中主神は手を繋ぎついていった。

ふと天之御中主神は気づいた、拝殿の前に女が立っている。誰だろうかとしっかりそれを視界に収めた。
白い着物に青い帯をしている、腰まである長い髪が風に揺れた。女は左手で子供とつないでいる、その子供には見覚えがあった、安徳天皇だ。その足元には白い蛇がやってくる。

「──はて」

目が合うと女が微笑んだ、天之御中主神はにやりと笑い返す。

「──ほう、女神(めしん)もおるのか」

天之御中主神の声に、明香里が「うん?」といって顔を上げる。

「なあに?」
「──いや。ここの神使は、蛇らしい」
「え! 蛇!? いるの!?」

天之御中主神が指さしたほうを見れば、賽銭箱の隣でとぐろを巻く真っ白な蛇を見つけた。

「ひえ……っ、なんでも神使になれるんだね……っ」

いって明香里は天之御中主神の腕にしがみつく、なにかされたわけではないが、虫や爬虫類は苦手だった。

天之(あめの)くんの神使が狐さんでよかった」

天之御中主神を見上げて微笑む、もし蛇だったら天之御中主神との逢瀬は諦めていたかもしれない。いくら仲を繋いでくれる存在とはいえ、蛇では触れることはためらってしまう。

「そうか」

天之御中主神も微笑み返したが、瞬間厳しい顔になり素早く拝殿へ視線を向ける。

(あめ)……」

何事かと呼びかける前にすぐ近くでなにかが弾けたのがわかったが、拝殿から放たれた突風を天之御中主神が止めたとは明香里にはわからない。

「なに?」

すると今度は頭上に叢雲(むらくも)が立ち込める、そう自分たちの上だけに。

「えええ!?」

それに見覚えはある、今手を繋ぐ天之御中主神も使う神通力だ。

「どうやら歓迎されたらしいな」

天之御中主神は笑顔でいって明香里の肩を抱き社務所へ急いだ、叢雲はついてくる。

「歓迎って!」

今まさに雨を落とさんとする雲を見上げて明香里は声を上げた。
その時拝殿の鈴が大きな音を立てた、それは天之御中主神が巻き起こした風によるものだとは明香里はわからない、だが瞬間雲は四散し、ふたりは濡れることはなかった。
天之御中主神が起こした風に巻き取られるように、女神の天之御中主神は安徳天皇とともに消える。残された蛇だけが、静かに鎌首をもたげ天之御中主神を見つめていた。

「──やれ、面倒なことなったな」
「ここの天之御中主神は、どういう人なのっ」

明香里が小さな声で怒鳴ると、天之御中主神は微笑みなだめる。

「なあに、明香里は心配するな」

いって抱き寄せキスまでする、それを拝殿の奥の厨子から丸見えだと知ってのことだ。

「おやめなさい、これから挨拶だというのに」

健斗が眉を寄せて文句を言った時、社務所の引き戸が開いた。宮司の中年女性が目の前で抱きしめ合う天之御中主神たちを見て頬を染める。

「横浜の美園です、お世話になります」

健斗が挨拶をした、明香里たちも慌てて(こうべ)を垂れる。宮司に中へを案内され、天之御中主神は建物に入る前に拝殿に視線を送る。

「──嬉しい申し出だが、あいにく、俺は明香里のものだ、諦めろ」

いいおいて引き戸を締めた、その戸が風に揺れる。

「ここの天之御中主神さまは、ちょっといたずらが過ぎるのかな」

不自然と思える風に、明香里は小さな声でいう。

「そうだな」
「なんかちょっと変な感じ。あっちこっちに天之御中主神さまがいるって」

水天宮に限らず神様は分祀されていると知っているが、それでも目の前の男が増殖しているのかと思えば不思議な気持ちになる。

「浮気は許さんぞ」
「しないよ」

真面目に言う天之御中主神に、明香里は満面の笑みで答える。

「私にとっての天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)さまは、天之くんだけだもん。私だけの神様なんてすごいよね」

まっすぐな瞳でいわれ、天之御中主神の心は満たされる。妙な縁で出会い恋に落ちたが、それが間違いではなかったと思える。

「ああ、加護を受けるといい、ずっと守ってやるからな」

それが比喩ではないなどと明香里はこれっぽっちも思っていない。

「うん、ありがと。嬉しい」

満面の笑顔で答え、靴を脱ぐために一度離した手を今一度繋ぎなおす。もう二度と離れまいとしっかりと。
初めて会ったときは冷たかったその手で心は溶かされたが、今は熱さで溶け合うような感覚が心地よかった。間違いなく天之御中主神は存在が変わったのだとわかる。

会うことすら叶わなかった人と、今こうして手を繋いでそばにいられる。その喜びを噛みしめた。

ついに、新しい生活の始まりである。




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