純恋歌
「ねえ、なんで私に優しくしてくれたの?」

私は純粋にたく君の優しさが気になった。

「えぇ……うーん…」

たく君は少し困ったような顔をして次の言葉を口にした。

「人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ」

「え…」

突然作家みたいな口調になったので目がきょとんとした。

「知らない?夏目漱石の言葉」

「あ、そうなんだ知らない…」

「他にもねいっぱい残した言葉があるんだよ」

そう言って帰りの電車でいっぱい楽しそうに話すたく君は少し可愛く見えた。

「じゃあ、ばいばい」

「うん、ばいばい」

たく君が降りる駅は何駅先なのかはわからないが私は家の最寄り駅を降り家路に着いた。

帰った時刻は正午過ぎ。

天気は雪もやみ快晴!

しかし家には暗雲が立ち込めてるように見えた。

一気に気が重くなった。

なんて言って家に入ろう

めちゃくちゃ怒られるよね

「奥さん!朝帰りならぬ昼帰りやん!」

真が2階の部屋から窓を開けて叫んできた。

「後で殺す」

私は静かだが確実に弟には殺意が伝わるよう呟いて中に入った。

「ただいま…」

「おかえり」

父の表情は怒りも心配もしてないような普通の表情をしていたのでホッと安心した。

ふと冷蔵庫を開けるとチキンやフライドポテト、お寿司など私の好きな食べ物がラップしてあった。

私の帰りを待っていたのだろうと心が痛くなった。

「あの昨日はごめんなさい」

「ん、まあ、無事に帰って来たから良いけど…。お腹空いてるなら食べなさい。冷蔵庫の奥にケーキも入ってるから」

私は用意されてたチキンなどのおかずも温めずそのまま食べた。

一人テーブルで食事をする。

冷えたおかずは硬く喉元を通りゆっくり胃袋に入るのがわかった。
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