純恋歌
俺の親父は警察官で俺が幼い頃殉職したらしい。

当時2歳だった俺は幼すぎて父親の記憶は全くなく、写真やホームビデオでしか見た事しかない。

「いい?人は思ったよりも簡単に死んでしまうんだよ?後悔してからじゃ遅いんだよ?」

そう母に諭されても俺はもうウザくて聞く耳を持たず

「うっせぇなぁ!黙ってろよクソババア!」

言葉の刃を母に向けた。

母の一瞬悲しみに暮れる顔に

ズキンッ!

と胸が痛くなる。

「もうお母さんはあなたに何も言いません」

そう言う母親の声は震えていて目には涙が溜まっていた。

「ああそうかよ好きにさてもらうよ」

俺はドアをバンッと閉めて自分の部屋に入った。

母は警察官だった父に誇りは持ってるが決して俺には警察官になれとは勧めなかった。

こんな時に父が居たら俺は殴られてたのかな?

それとも居たらグレないで真面目だったのかな?

なぁ、父さん教えてくれよ。

答えの見つからない自問自答を繰り返していくうちにいつの間にか眠りについていた。

翌朝起きるといつものように台所に立ってる母親が居た。

「おはよ、時間がないから朝ご飯早く食べてね」

母は俺に優しく話しかけた。

(昨日の出来事でなんでこうも切り替えれるんだよ)

と、思ったが母親を見たら沢山泣いたのであろう、顔がむくんでいた。

「食べないの?」

「いいや」

俺はそう言って学校に行く準備をした。

「はい、弁当!ほら?」

受け取らない俺に無理矢理渡そうとしてきたが

「いらないって言ってるだろ!」

母の手を振り払って家を出た。

通学中、その時の悲しそうな母の顔がいつまでも脳裏から離れなかった。
< 84 / 231 >

この作品をシェア

pagetop