婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
 あれは一点もので希少価値のある宝石をふんだんに使った輸入品。リリアからは『ひとめぼれ、これ欲しい』とおねだりされたし、これ以上のものは滅多にお目にかかれない代物だと言われて値段も見ずに即決した。俺はテンネル侯爵家の嫡男だし、この程度の買い物くらい許されるだろう。

 王妃様もさすが目が高いよな。指輪に気づくなんて。見惚れていたみたいだったし垂涎の品だったんだろうな。どんなに欲しくても一点ものだから手に入らないのが気の毒だけど。
 招待客にも見せびらかしたが『さすがテンネル家素晴らしいものお持ちだ』『我々には手の届かない指輪だ』『素晴らしい審美眼をお持ちで』とか散々褒められて気分がよかったしな。俺もよい買い物したよなあ。

 カチャカチャ

 俺が優越感に浸っていると食器がこすれる音が聞こえた。
 リリアがステーキ肉と格闘しているようだ。ナイフとフォークの使い方がぎこちない。元は平民として暮らしていたからかマナーが今一つで身についていない。
 男爵家では教育していないのか?

 「あん。上手く切れないよー」

 愛らしい声が漏れて悪戦苦闘中のリリア、がんばれ。
 フォークで肉を押さえてナイフを動かせば切れるはずなのだが、要領が悪いのかどうもうまくいかないらしい。そのうち肉が飛んでいくんじゃないかと見ているこちらも気が気ではない。
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