素直になれない…
平石物産の仮眠室。
普段は休憩室として使われることの多い畳の部屋だけれど、忙しい時には泊れるように布団が用意してある。
とはいっても、夜はほとんど使われていないことを総務に勤める私は知っていた。

途中のコンビニで食べ物と飲み物を買い込んで、会社まで車で向かう。

社員パスで警備室を通過し、自社ビル15階にある仮眠室。
やはり誰も使っていないようで鍵はかかっていない。
電気をつけようかなとも思ったけれど、なんだか気が引けて壁伝いに部屋へと入った。

6畳ほど畳の部屋の中央にテーブルが1つ。
壁伝いに歩けばぶつかることもないはず、だった。

グニュッ。
え?

足に伝わる何かを踏んだ感覚。

「痛っ」
少し離れたところから、声が聞こえた。

え、嘘。
焦って動こうとして、

「あぁああ、」
ドンッ。
見事に転んだ。

それも、誰かの上に倒れ込んだ。


「ねえ、どいて」
しばらくして聞こえてきた男性の声。
「す、すみません」
男性の上から降りて謝ってみる。

どういうことだろう。こんな時間に人がいるなんて。
それに鍵も閉めないなんて不用心すぎる。

「君、泥棒?」
「違います。私は総」
「いい、言うな」
「は?」

「今は仕事じゃないんだろ?」
「ええ」
「じゃあ言うな」

な、何なのこの人は。
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