初恋は海に還らない



 一見無愛想なのに、話し出すと表情豊かで、蓋をした心の内を引き出されてしまう。私よりも十も年上なのに、そんな歳の差を感じさせない。洸は不思議な人だ。



「ここだ」



 比較的新しい住宅街の隅に立つ、古いビルの一階、そこが洸の店らしい。入り口の横には小さな木の看板があり『paradise tattoo』と彫ってある。これが店舗名らしい。



「なんでパラダイスなの?」
「俺の技術で来てくれた人を楽園に連れてく的な」
「なにそのセリフ……めちゃくちゃ如何わしく聞こえる……」
「なにも如何わしくねーよ」



 鍵を開け、中に入っていく洸の後に続くと、店内には、お香の匂いの中にほんのり煙草の匂いが広がっていた。



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