初恋は海に還らない



 夏休み真っ盛りの八月一日、私、白澤都は、東京から一時間程の祖父母の家に一ヶ月間預けられることになった。


 祖父母の家は海辺の小さな田舎町で、漁業が盛んらしい。昔はよく泊まりに来ていたが、もう高校生にもなると自然と疎遠になっていた。


 海岸から車で十分程、緩い坂を登った先に、祖父母の住む瓦屋根の平家が建っている。駐車場に車を停め、車から降りて懐かしいその家を見上げていると、先に玄関の中に入っていた母が私を呼んだ。


 
「ほら、都。久しぶりなんだからちゃんと挨拶して」



 玄関の引き戸を潜ると、小上がりに祖父母が立っていた。目尻に皺を寄せ、嬉しそうにこちらを見つめている。
 私が小学生の頃は背筋をピンと伸ばし、シャキッとしていた2人は、少しだけ小さくなっていて、時の流れを感じる。



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