初恋は海に還らない




「分かった。帰るから。けど、帰る前に手を出して」
「なんでだよ」
「いいから、早く」



 洸が大きな手のひらをこちらに差し出す。私はその上で、握った手をゆっくりと開いた。重力に従い、コロリと洸の手のひらに落ちた、ところどころ錆びた銀色の輪っか。それを見て洸は、目を見開いた。



「────これ、なんで」



 洸の声は掠れていた。


 やっぱり、そうだった。あの日、光ったのは婚約者さんの指輪だったんだ。


 
「私、洸と出会った日、確かに自殺しにあの堤防に行ったけど、その前にこの指輪が光ったのに気付いて覗き込んで滑ったの」
「…………どうやってこれ、拾って来たんだよ。そんなの、危ねぇだろ」
「最初理玖と二人で長い棒で引っ掛けようとしたり頑張ってたんだけど無理で、最終的に理玖の叔父さんの船で近付いて、岩場に飛び移ったの。けど最終的に頭から海に落ちちゃって、理玖に引き上げられた」
「何してるんだよ……危ねぇだろうが」
「けど、無事に取れたし死ななかった」



 私がへらりと笑って見せると、洸はぐっと何かを堪えるように唇を噛んだ後、私の腕を掴んで店内に引き込んだ。



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