社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
 もちろん、下心がないと言えば嘘になる。けれど、そこはスルーしてくれぇーと思った実篤(さねあつ)だ。

「うっせぇーわ」

 吐息混じりに鏡花(きょうか)を睨んだら、いきなり胸ぐらを掴まれ、グイッと顔を引き寄せられて、すぐ耳元。
「くるみちゃんの事、しっかりケアしてあげんさいよ⁉︎」
 と耳打ちされた。

 鬼塚のことを話した時のくるみの様子がおかしかったから、鏡花も思うところがあったんだろう。

 思いのほか自分のことを信頼してくれているような口ぶりに、実篤はジーンときて。

「鏡花っ」

 思わず可愛い妹をギュッと抱きしめようとしたら、サッとかわされてしまった。

「気持ち悪いことせんで!」

 鏡花はそのまま、実篤が手にしていた万札をスッと奪うと「お釣りはお小遣いでええんよね?」と言ってくる。

 元よりそのつもりだった実篤は、だけど悔しさから吐息まじり。
「いけんっちゅうても返す気なかろうが」
 と呆れた素振りをして見せる。

「よぉ分かっちょるじゃん」

 クスクス笑う鏡花が、くるみとは違う意味で小悪魔に見えた実篤だ。


 ホテルの外には、わざわざ呼びつけなくてもタクシーが常時数台待機していて。

 実篤はくるみと二人、鏡花がタクシーに乗り込んで、無事走り去って行くのを見えなくなるまで見送った。
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