社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎
8.バレンタインデー
実篤(さねあつ)さん、十四日。お仕事が終わられてからでええですけぇ……うちにちょっとだけお時間を頂けますか?」

 年が明けて割とすぐ。二人で一緒に広島へ行って。
 お互い気分が(たかぶ)ったにも関わらず、なまじ市外へ出ていたりしたものだから、家に帰るまで我慢が出来なくて初めてラブホテルに入った実篤とくるみだったけれど。

 結局ちょっとだけ休憩のつもりが、危うく宿泊になりかねない時間――二十一時(くじ)過ぎまでイチャイチャしてしまった。

 さすがに帰りの運転は結構しんどかった実篤だったが、思う様くるみを抱いた気怠(けだる)さだと思えばむしろ清々(すがすが)しいくらいで。

 あの日向こう一週間分はしっかりとくるみを堪能し尽くしてチャージ出来た気がしたのに、実は今現在くるみロスの真っ只中。

 というのも――。

 あれ以来バタバタして、気が付けばくるみが移動販売でクリノ不動産横の駐車場へパンを売りに来る以外ではまともに会えていなかったから。


 不動産業には年間を延べて見たとき、繁忙期が二回と閑散期が一回ある。
 新生活が始まる一月から三月、転勤シーズンに当たる九月と十月が繁忙期に当たり、逆に梅雨や夏の暑さで引っ越しが敬遠される六月から八月は引っ越し件数自体がぐんと減る閑散期と言われている。

 くるみと付き合い始めたのは去年のお月見の後なので、クリノ不動産も御多分に漏れず繁忙期のど真ん中だった。
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